THE VOLVO
LIFE JOURNAL

愛犬と湖が見える家に住む夢は… 2021/05/06

犬も歩けば森に当たる!藤田りか子の“北欧”犬通信 vol.4



森と湖に溢れた国だからこそ、森奥深くの湖畔に家を構えて住む、というのも決して夢物語ではないのがスウェーデンです。とはいえ、それなりの物件ともなると庶民の手に届きにくいのも事実。また今では岸辺の土地は岸保護法 (Strandskyddslagen)で守られており、水際から100m内に建物を新たに建てることが禁止されています(すでに立てられているものを改築したりするのは許可されています)。よって湖のすぐ側に住みたいと思えば、この法の施行以前に建てられた物件が売りに出されるのをただ待つしかありません。ですが、数は限られているうえに人気がありますから、価格はあがってしまうのは当然です。


私の犬はレトリーバーという水好きな犬種です。湖のすぐ側に住めたらさぞ楽しく犬と生活ができるだろう、と湖畔住まいにずっと憧れていました。今住んでいるところも犬にとっては理想的な場所ではあります。周りは何もないヴェルムランド県の大自然。湖まで歩いて10分ほど。家の窓から見える景色はひたすら森、森、森。隣の家まで300mはあります。



自宅の窓から見える景色はひたすら森、森、森。森の王者といわれるヘラジカもたまに敷地にやってくる



一通り欲しいモノを手に入れ満足するのも束の間、しばらくするとまた別のモノが欲しくなり始める…。ヒトというのはなんとも欲の皮が突っ張った生き物です。
「窓から見える森の景色もいいけど、やっぱり湖だったらもっといいなー」
と湖畔物件をある期間探しまわっていました。が、電気が通っている、光回線がある(仕事で必要です!)、道路沿ではない、市街地から50km以内、隣に家がない、などいろいろ条件をつけると、ムム、やはり予算では賄いきれず。


あるとき知人がブルドーザーを持っていることを知りました。なんと!これはチャンスです。我が家の敷地の一部は湿地になっておりボウボウと藪が生い茂っています。窓から眺めながら「これがせめて水場だったらいいのに!」と何度思ったことでしょう。
「この湿地をブルドーザーで掘ったら池が作れるかも?湖畔マイホームの夢が叶わないのなら、せめてその代替案として池でも!」
と考えたのです。水場のある住まいには変わりありません。ブルドーザーの持ち主のおじさんに相談したら快諾してくれました。やはりスウェーデンの田舎ならでは。まずはパイロットプロジェクトとして深さ1mほど、面積は10mx2mほどの小さな池を掘ってもらいました。



庭の池掘りプロジェクト!ブルドーザーで掘った後。あとは自然に水が貯まるのを待つだけ!



もともと湿地ですから水は自然に湧きでてきます。2年後には草も十分生茂げ立派な池に。野生のカモやガンが訪れるなど、自然の一部になってゆきました。散歩で汚れた犬を洗うときもその池はとても重宝しました。池で遊べー!と叫ぶと犬たちはジャボンと飛び込みます。そして水からでてくると、はい、もうきれい。毛にこびりついた砂や泥はすっかり洗い落とされています。


のみならず池は犬たちにとって素敵な環境エンリッチメントの役割も果たしてくれています。庭に放していると彼らは水面に浮いているものをくわえては岸に持ってくるという遊びに夢中になります。楽しくてしょうがない感じです。犬らしい生活、というのはまさにこのことでしょう。我が家の池のまわりには、犬が回収してきた枝や根っこのついた水草がよく転がっています。



掘って2年後。草が生茂げ野生のマガモが子連れで池にやってきた。水鳥が来るというのは、彼らに池が認められたことなのかもしれない。



実はこの池では飽き足らず、一昨年の終わりにもうひとつ池を掘りました。今度はとても大きいものです。広さおよそ20mx50mで深さは2mほど。なぜこんな池を作ったのか。一つは寝室からの眺めをよくしたかったから、もう一つの理由は犬のトレーニングに必要となったからです。アシカというラブラドール・レトリーバーと狩猟犬競技のスポーツで競っています。この中には、水を渡って向こう岸にゆきそこに落ちている鳥を回収するというような技も求められています。その際に、犬は人が指示した場所までまっすぐに泳いで到達しなければなりません。アシカは真っ直ぐに目的地まで泳ぐ、という技があまり得意ではありません。できるなら岸をつたって向こう側に行こうとします。これをトレーニングするのにちょうどよい湖は確かに探せばあるのですが、どうせなら自宅に欲しいと思いました。そこで大きな池なのです。これならいつでも好きな時にトレーニングできます。アシカのみならず、いずれの日にやってくる新しい若犬のトレーニングも早期から簡単に導入できそうです。


昨年は池での練習が功を奏し、アシカと競技会で何度か一位になりました。というわけで今のところこの大きな池にとても満足。もうこれ以上欲深いことは申しません!寝室の窓から水場が見える幸せに浸っていますしね。毎朝カモが訪れ、クアックアッという鳴き声に起こされます。カモもいろんな種類がこの池にやってきました。一度は13頭でなるイノシシの大家族も訪れました。


いずれはこの池でザリガニを養殖したいと思っています。あ、そうそう、スウェーデンでは8月にザリガニパーティというのがよく開かれ(参照 北欧女子オーサのマンガ『ニッポン発見紀行』「ザリガニパーティー」)、みなで強いお酒を飲みならがザリガニを食べるという習慣があるのですよ!



またブルドーザーのおじさんを呼んで再度池作りに挑戦!工事は10日間で終了。



こうして寝室から水のある景色を眺められるようになった。さまざまな鳥がやってくるので双眼鏡がかかせない。部屋の中からバードウォッチング。



ホオジロガモのオスが求婚のダンスをしに池にやってきた。池の真ん中には島も作っている。ここで鳥がくつろいでくれたらなぁという配慮だ。



シカやイノシシも池のほとりにやってくる。



藤田りか子

藤田りか子

ドッグ・ライター、犬学セミナー講師。スウェーデン・ヴェルムランド県の森の奥、一軒家にてカーリーコーテッド・レトリーバーのラッコとラブラドール・レトリーバーのアシカと住む。人生の半分スウェーデン暮らし。趣味はドッグスポーツ。ノーズワークとガンドッグ・フィールド・トライアルのコンペティター。アメリカ・オレゴン州立大学を経てスウェーデン農業科学大学野生動物管理学部卒業。生物学修士(M.Sc)。犬のブログサイト「犬曰く」運営者。主な著書に「最新世界の犬種大図鑑」(誠文堂新光社)など。



文と写真:藤田りか子