子犬を得るのはブリーダーから、スウェーデンの動物ウェルフェア 2021/07/21
犬も歩けば森に当たる! 藤田りか子の“北欧”犬通信 vol.5

スウェーデンにおけるブリーダーについての考え方
「ブリーダー」という言葉を聞いたことがあるかと思います。人が何かの目的を持ちあえて動物を繁殖させることをブリーディングと呼び、その担い手になる人がブリーダーです。猫や犬、うさぎなどペットとなる動物を繁殖するブリーダーもいれば、競走馬や肉牛、乳牛を繁殖するブリーダーもいます。この通りブリーダーと言っても、さまざまなタイプが存在します。ウィキペディアのブリーダーの定義よると、犬の場合
「1匹〜数匹しかいない家庭的なブリーダーから、会社組織で大掛かりに繁殖をおこなっているブリーダーまで様々である」
とあります。スウェーデンの犬のブリーダーは前者の「家庭的なブリーダー」にあたります。ペットショップで犬・猫の生体を販売するのは法律で禁じられており、犬を飼うのであれば個人がホビーとしてやっている繁殖している人から得るのが風潮となっているからです。

スウェーデンのブリーダーの多くはこんなふうに家の一部を改造して、母犬と子犬のスペースにあてがう。家庭の雑音を聞きながら、子犬は育つ。
しかし犬の知識のない人がむやみやたらに繁殖を手がけることはありません。ブリーディングは犬のウェルフェアが保証されるようスウェーデンの動物保護法及び純血犬種の登録管理を行なっているスウェーデンケネルクラブの基本原則によって、厳しく管理されています。飼養環境についても数値によって細かく規定されています。ケージ飼いやつなぎ飼いは禁止されていますし、犬は基本的に家あるいは犬舎の中で過ごすことが求められています。
まずは親犬の健全性をチェックすることから
さて、私も実は初めて自分の犬でブリーディングを試みてみました。ラブラドール・レトリーバーのアシカの子犬が欲しかったからです。アシカは人生で一度会えるかどうかの犬。彼女とは出会った瞬間に気持ちを通じ合わせることができました。ノーズワークやガンドッグ(レトリーブという狩猟技を競うドッグスポーツ)を教えたら、あっという間に覚えてくれました。競技ではほとんど連続で賞を勝ち取ったこともあります。彼女は私にドッグスポーツの楽しさと喜び、そしてお互いが強く繋がることの素晴らしさを教えてくれた犬ともいえるでしょう。
繁殖をするにあたって、まずは親犬の健全性チェックが必要です。ラブラドールレトリーバーは肘関節と股関節の疾病にかかりやすいのでレントゲンで検査します。肘関節は全体重の60%を支えます。ここに支障があるのは「動く」を生き様とする動物ゆえに、ほぼ命とりともいえます。さらに純血種に多い白内障や緑内障など目の疾病についても交配の数ヶ月前に犬の眼科専門医に診てもらいます。これらヘルスチェックはスウェーデンケネルクラブの規則でもあり、従わないと子犬をケネルクラブで登録することはできません。逆にいうと、登録されている犬を買うということは、最低限の倫理が守られた状態でブリーディングを受けている犬である、という保証にもなるのです。

犬の本当のウェルフェアは、病気にかかった犬を治すことよりも、病気にかからないよう予防することです。罹ってしまったらそれだけ犬のQOL(生活の質)は下がってしまいますから。生まれてくる犬が健全であるよう生前にできる限りのことをしておく。この動物倫理はスウェーデンではブリーダーの間で広く受け入れられています。だからこそまずは両親の健全性を検査することからブリーディングは始まるのです。
アシカ一歳のとき。股関節と肘間接に異常がないか、レントゲンでチェックを受けたところ。まだ麻酔が効いており、診察台に横たわったまま
8週齢になったら新しい家族のもとへ
スウェーデンの多くのブリーダーがやるように私も自分の部屋に産箱を設置して、最初の3週間はパピーと同じ部屋で寝ました。子犬と母犬を監視するためです。母犬にとっても私が側にいることで安心を感じるようです。
子犬たちは最初の18日間は産箱で過ごしました。産箱はもちろん手作り。母犬が十分に横になれるほどの広さがあるもの。さらにパピーが寝るところと、排泄をするスペース分けられるほどの大きさが必要です。140cm X 200cmで、セミダブルベッドほどのサイズになりました。母犬が時には産箱から出て子犬から離れて休めるよう壁の一部は低くしています。壁周りには幅10cmほどの横木も巡らせています。子犬が壁と乳を飲ませるために横になった母犬の間に挟まってしまった場合、隙間に避難できるよう安全設計が施されています。

これが産箱。温度調節のために赤外線のランプも上から吊り下げた。産箱の床はフカフカのマットで敷き詰められている。とても居心地がよし。人も寝れてしまうほど!この中でパピーたちはおよそ3週間を過ごした。
アシカは全部で なんと9頭もの子犬を産みました。うち4頭がオス、5頭がメスです。ラブラドール・レトリーバーは多産なので、7〜8頭というのは普通です。今原稿を書いている時点で子犬たちは1ヶ月齢になりますが、すくすくと順調に育っています。あと3週間我が家で過ごしたらいよいよ新しい家族のもとに飛び立ちます。
ところでスウェーデンには子犬が8週齢になるまで母犬、兄弟姉妹から引き離してはいけないという法律があります。かといってブリーダーは8週以上手元におくこともほとんどありません。というのも、子犬が強い恐怖感を抱かずに新しいことをどんどん吸収していく期間「社会化期」は12週齢までです。つまり社会化の窓がまだ閉じていない残りの4週のうちに新しい家族の元で新しい環境、新しいルーティンを刷り込んでもらう必要があります。こうしてすんなりと家族の元で犬生のスタートを切ることができるのです。
ブリーダーと面接?!
子犬が5週齢になったら、ブリーダーは子犬を欲しいという人の訪問を許可し始めます。アシカの場合、子犬が生まれる前からすでに予約している人もいてあっという間に8匹(1匹はじぶんの手元に置いておきます)に貰い手がつきました。先週から今週にかけて3家族が我が家に子犬を見にやってきました。

子供のいる家庭はたいてく家族連れでやってくる。子供達はどの子犬にしよう?と両親といろいろ話し合いながら決めてゆく。もちろんブリーダーがその時にアドバイスを両親に与える。
ブリーダーはこの機会に「果たしてこの人に本当にパピーを譲って大丈夫なのだろうか」と実際に顔を合わせることで新しい家族となる人のチェックをします。そしてこの時こそフィーカ!コーヒーを飲みケーキなどを頬張りながら、どんな仕事をしているのか、一日のルーティンはどうなのか、犬を飼ったらどんなアクティビティをしたいか等を確かめます。いわば「リラックス」した状態での面接試験(?!)みたいなものですね。初心者の人であれば、こちらからどうすべきか色々アドバイスをあたえたりします。こうして犬に慣れていない人もブリーダーとコーヒーと飲んでペチャクチャとおしゃべりをしながら次第と知識を深めてゆくのです。

子犬を見に来た人とは必ずフィーカをする。ゆったりとくつろぎながら、どんな風な生活をしているのか、この時にブリーダーは聞き出してゆく。同時にパピーを飼いたいという人はどんなことが犬との生活に必要なのか、たくさんの情報を得る。
さて、実はまだ私自身、どの子をキープしておくべきなのかわからない状態です。まだ5週ということもあって、性格がはっきり現れていません。またいずれの機会に新しく家族となる子を皆さんに紹介しますね。

藤田りか子
ドッグ・ライター、犬学セミナー講師。スウェーデン・ヴェルムランド県の森の奥、一軒家にてカーリーコーテッド・レトリーバーのラッコとラブラドール・レトリーバーのアシカと住む。人生の半分スウェーデン暮らし。趣味はドッグスポーツ。ノーズワークとガンドッグ・フィールド・トライアルのコンペティター。アメリカ・オレゴン州立大学を経てスウェーデン農業科学大学野生動物管理学部卒業。生物学修士(M.Sc)。犬のブログサイト「犬曰く」運営者。主な著書に「最新世界の犬種大図鑑」(誠文堂新光社)など。
文と写真:藤田りか子
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