THE VOLVO
LIFE JOURNAL

2030年までにEVに完全移行。ボルボが目指す未来とは? 2021/04/21

株式会社Looop代表取締役社長・中村創一郎さん電気自動車と自然エネルギーの未来についてうかがった

1927年の創業以来、人々の安全を第一に考え、さまざまな変革を起こしてきたボルボ。2030年までに全販売モデルを電気自動車(EV)に完全移行すると発表した。その背景には、「人の幸せ」を中心に置いて車をつくる理念がある。
今回はボルボが新しく掲げた目標を紹介するとともに、その活動に共感する株式会社Looop代表取締役社長・中村創一郎さんに電気自動車と自然エネルギーの未来についてお話をうかがった。



完全EVモデル「C40」



全販売モデルをEVへ。「C40」を発表したボルボが追求するサステイナブルとは

この数年で急成長している、プレミアムEV市場。ボルボ・カーズの本社があるスウェーデンをはじめ、ヨーロッパ諸国では率先してEVの普及に取り組み、車1台あたりにおける二酸化炭素排出量の削減を目指している。そんななか、ボルボはプレミアムEV市場を牽引すべく、2030年までにEVに完全移行すると発表した。4年後の2025年には、全世界のEV販売比率を35%へと高めていくことを目指すと同時に、ハイブリッド車を含む内燃機関搭載車の製造・販売を段階的に廃止していくという。

この大胆な決定は、「創業以来、人々の安全を追求してきた姿勢と同じように、サステイナブルを追求する」というボルボ の意思の表明だ。実際、2040年までにクライメート・ニュートラル(製造工程などで排出される温室効果ガスの純排出総量をゼロにすること)の実現を掲げており、開発・製造・使用・リサイクル・リユースといった全領域において、包括的な取り組みが実施されている。EVへの完全移行は、目標達成のための大きな一歩になるのだ。

そして今回の発表にあわせて披露されたのが、ボルボ史上2台目となる完全EVモデル「C40」(2021年秋販売開始)。クロスオーバータイプのSUVで、緩やかな傾斜を伴うルーフラインと印象的なリアエンドデザインが特徴だ。インテリアには本革を使用せず、ヘッドライトには最先端のピクセルテクノロジーを搭載。フロントもEV ボルボの新しい顔となる、革新的なデザインだ。

※日本ではEV未発売。日本では2021年秋に初めてのEV発売開始される



完全EVモデル「C40」(2021年秋販売開始)



オンライン販売とサブスクリプションで「さらなる利便性」を実現する

創業当初から「人」を一番に考え、安全技術をはじめとした、さまざまな発明や革新を続けてきたボルボは、EVへの完全移行とともに、人々の利便性を考えた画期的な取り組みをスタートさせるという。そのひとつが、EVモデルの100%オンライン販売だ。これまで対面で行われてきた、サービス、保証、ロードサイドアシスタンス、保険などが、ケアパッケージとして付帯されることで、面倒な手続きや無駄な時間を省略することが可能になる。この販売方法の革新について、ボルボ・カーズ CEOのホーカン・サムエルソンは、「成功し続けるためには、収益性の高い成長が必要です。そのため、縮小する事業に投資するのではなく、電気自動車とオンラインという未来への投資を選択しました」と語る。

さらにオンライン販売とあわせて力を注いでいくのが、「Care by Volvo(ケア・バイ・ボルボ)」という、利便性の高い総合的な顧客サービスの提供。その皮切りとなるのが、「C40」のサブスクリプションサービスである。加入から3か月経てば追加負担なく解約も可能なため、車の所有から解放され、ライフスタイルの変化に合わせて自由に車を使用できる。まさにボルボが掲げる「Freedom to Move(モビリティの自由)」を具現化するサービスだ。

オンライン販売やサブスクリプションなど、これらの施策で大切なのは、シンプルさと利便性である。製品提供の複雑さを根本的に減らし、新たなプラットフォームを構築することにより、幅広い顧客サービスへと拡大していくだろう。



Looop社長が語るボルボ新方針の魅力とは?

2030年までに全販売モデルをEVに移行するという発表は、世の中にどのようなインパクトを与えたのだろうか。そこでボルボと同様にサステイナブルな社会の実現に向け、再生可能エネルギーの開発に取り組む、株式会社Looopの中村創一郎さんにお話をうかがった。中村さんが再生可能エネルギーの開発に取り組む理由とは?またボルボとの共通点はどこにあるのだろうか。



株式会社Looopの中村創一郎さん



中村創一郎

中村創一郎

株式会社Looop代表取締役社長。中国でレアメタルの貿易事業を経て、2011年の東日本大震災を機に日本へ帰国。石巻・気仙沼にて太陽光発電パネル設置のボランティアを行い自然エネルギーの可能性を予見し、2011年4月に株式会社Looopを創業。エネルギーフリー社会の実現を目指している。
https://looop.co.jp/



ボルボが長年培ってきた安全性と先進性が、「車が好きな一般層」の心もつかむ

再生可能エネルギーの供給事業に取り組み、「エネルギーフリー社会の実現」を目指し活躍している中村さん。大の車好きでもあり、EVへの興味関心も強いという。今回のボルボの発表を受け、どのような印象を持ったのだろうか。



中村
非常にインパクトがありました。やっぱりボルボはかっこいい。見た目ももちろん大好きなのですが、ぼくが一番に惹かれたのは「人々の安全を追求してきた姿勢と同じように、サステイナブルを追求する」という理念です。再生可能エネルギーや脱二酸化炭素の考えを組み込んだ完全EV化戦略を立案し、徹底的に取り組んでいる点に共感を覚えました。


株式会社Looopの中村創一郎さん



自動車メーカー各社から先進的なEVモデルが続々と発表されるなか、中村さんはボルボがEVメーカーとして業界全体を推進していく存在になると予想する。



中村
乗る人の安全や運転する楽しさを大切にする車づくりに長く取り組んできたボルボだからこそ、多くの人にイノベーティブなアプローチやデザインが受け入れられています。消費者の信頼はすぐに得られるものではないですからね。ボルボなら、業界の人だけではなく車が好きな一般層にもその先進性が評価されているのではないでしょうか。


メガソーラーの次に目指すのは、一家に一台のソーラーパネル

ボルボは再生可能エネルギーに対しても高い意識を持って取り組んでいる。その結果2020年には、全世界の製造拠点で使用する電力のうち、再生可能エネルギーの使用率80%を達成した。一方で、日本における再生可能エネルギーの浸透はどのような状態なのだろうか。



中村
現在の日本は、発電時にCO2が発生する火力発電の普及率が75%なのに対して、再生可能エネルギーの普及率は18.5%です。水力と太陽光がそれぞれ10%弱という割合で、少ないように感じますよね。でも、視点を変えてみると、日本は中国、アメリカ、インドに続いて、世界で4番目に電気を使っています。電気使用量が多いことを考えると、全体の約20%を再生可能エネルギーで賄えているということは、すごいことだとも言えます。


そして、ここまで再生可能エネルギーの割合を増やせた理由は、日本が世界で3番目に太陽光パネルを導入している国だからだと続ける。



中村
日本の太陽光パネルの導入率が高くなった背景には、FIT制度(固定価格買取制度)という法律がありました。これは、再生可能エネルギーで採算が取れるようにすることで普及促進を図ろうと国が定めた制度です。この10年間、効率を良く発電するために広大な土地に大規模な太陽光パネルを置く「メガソーラー」が増えていった。しかし本来やるべきは、屋根の上や使わない場所への導入です。これからの10年間は、自分の家で電気を発電し、ためて使う時代。すべての家庭に太陽光パネルを設置するくらい、熱心な取り組みが必要だと考えています。


株式会社Looopの中村創一郎さん



非常時に知った電気の課題。Looopが目指すエネルギーフリーとは

2011年4月4日の創業から、10年がたったLooop。再生可能エネルギー普及のため、電力小売事業(Looopでんき)、自家消費・PPA事業、産業用ソーラー事業、住宅用ソーラー事業、電源開発事業といった多様な展開をしている。その創業の背景を聞いた。



中村
きっかけは、東日本大震災の被災地でのボランティアでした。それまでぼくは、中国でレアメタルを取り扱う事業をしていて、ビジネスを推進する術はひと通り身につけていました。一方で、「人の役、社会の役に立つような仕事がしたい」「もっとたくさんの人を巻き込みながら、社会を変えていきたい」という思いが芽生えていきました。

そう考えていた矢先に東日本大震災が起こってしまった。被災地で自分ができることを考えていたときに、仕事で知り合った人が太陽光パネルを寄贈してくださったんですよ。そこから、被災地への設備の寄贈からはじまり、現地で設置をする人、電気の供給工事をする人、といろいろな人を巻き込んでいきました。そうして電気が使えるようになったとき、老人ホームの人たちや子どもたちがすごく喜んでくれて。それがとても嬉しかったんです。


中村さんはこの経験を通して、あたりまえにある電気の素晴らしさあらためて感じたという。



中村
電気がないと本当に大変で、食事をつくるのも一苦労ですし、スマホで情報を集められないし、トイレすら流せない。何にもできなくなってしまうんです。ボランティアをしていた当時は、発電所が復旧していても電柱が倒れて断線しているエリアは、1か月先まで電気が使えないという状況でした。インフラが整い、電気があたりまえに使えているときは気づけませんでしたが、じつはいまの社会ってすごいんですよね。


株式会社Looopの中村創一郎さん



一方で、福島原発のメルトダウンにより気づかされたのが、電力の使用にまつわるコストの問題だ。中村さんはここで、画期的な解決方法を考えていった。



中村
福島でつくられる電気は、1kWhあたり5円程度。それを東京に引っ張ってきていたため、コストが加算されて1kWhあたり26円に値段が上がる。ということは、使う場所で電気をつくれば、電気を引っ張るためのコストがかからなくなる。つまり太陽光パネルと蓄電池があれば、完全に独立して電気が使えるようになります。そして足りなければ、ご近所同士で融通する。これは分散型電源というものなんですが、このほうが圧倒的に効率が良いと考えました。


ボランティアを通してビジネスの種を見つけた結果、Looopを創業するまでに、そう時間はかからなかった。



中村
太陽光エネルギーの発電は高いイメージがあったのですが、中国の太陽光パネルが生産体制を向上させている光景を見て、今後どんどん価格が安くなると確信しました。実際にこの10年で、太陽光パネルのコストは中国で10分の1、日本では30分の1まで下がりました。そうなれば、当然電気代も安くなります。そういった見通しを立て、「エネルギーフリーにしていくことで、人の役に立つ」という思いを胸に、Looopがはじまりました。


「EV割」も展開。そこで必要なのがインフラ整備

再生可能エネルギーは、火力発電のように原料費がかからないため、本来ならば導入すればするほど電気代がかからなくなるはずだ。しかし再生エネルギーに対しては、「高い」というイメージが定着してしまっている。



中村
まずは世の中のイメージを「再生可能エネルギーにすれば安い」というふうに変えていく必要があります。太陽光は長期にわたって発電していくほど、1kWhあたりのコストが安くなることを実感していただきたくて、現在「Looopでんき」では「どんどん割」を北海道で実施しています。じつは、北海道は国内でも電気代が高いエリアで、1kWhあたり32円もするんです。火力発電に頼っていると常に燃料費がかかり続ける一方で、太陽光発電パネルは、減価償却が進むことで、1kWhあたりのコストが下がっていく。お支払いいただく電気代は最終的に20年で、最低価格の22円に到達する想定です。「エコ=高い」という常識を覆したいですね。


株式会社Looopの中村創一郎さん



こうした再生可能エネルギーを用いた Looopのサービスはほかにもある。そのうちの一つが「EV割」だ。



中村
Looopでは、EVを持っていると、電気代が1kWhあたり1円安くなる割引サービスを行なっています。これはボルボのみなさんにもぜひご提案させていただきたいです。例えば、新しくはじめるサブスクリプションプランのなかに、電気代を入れてもいいと思うんです。EVユーザーはたくさんの電気を使います。サステイナブルの視点でいえば、そこで火力発電に頼っていては本末転倒です。Looopとしては、そういった人たちに対して再生可能エネルギーを供給することもやっていきたいです。


今後EVを選ぶ人が増えれば、EV車を蓄電池として使い、家庭用の電気をお得に活用する選択肢も生まれるだろう。こういった新しい使い道を実現するためには、インフラの整備もしていく必要がある。



中村
日本にEVを浸透させるには、再生可能エネルギーを供給できる充電ステーションを増やしていくことが必要不可欠です。そこでわれわれが再生可能エネルギーを供給する。充電ステーションの上に太陽光パネルをつけて、ステーションで発電した電気を使ってもらうシステムなどをどんどん構築していきたいです。


株式会社Looopの中村創一郎さん



SDGsはまるでゲーム?みんながハッピーになるためにLooopが目指す社会

再生可能エネルギーは、現代の環境問題を乗り越える大きな鍵になる。しかし、中村さんが何よりもフォーカスしているのは、再生可能エネルギーの「利便性」だ。ボルボとLooopに共通するのは、こういった「人」を中心に据えた考え方である。



中村
ぼくは、知識の蓄積によって文明を発達させ、便利に暮らせる社会をつくってきた人類をリスペクトしています。だからこそ、人類がいろいろな方向に進化し、可能性を広げていくためのお手伝いをしていきたい。文明の発達と環境問題は対立するものと思われがちですが、ぼくはそうは思いません。利便性を追求しながら、環境に配慮した仕組みをつくることがぼくたちにはできるはず。太陽光もその一つです。


いままで築き上げてきた便利さを否定することなく、持続可能な社会を目指す。中村さん曰く、SDGsもこういった前向きな考え方が前提にあるという。



中村
SDGsはすごく面白い発想で、経済学者がきちんとビジネスを回しながら、サステナブルを発展させていくことを考えた仕組みなんです。いまSDGsが浸透し、世の中を少しでもよくしようとする人たちがコミットして動いている。CO2の削減も、短期的にみると正直効率が悪いのですが、多くの企業が人類の未来、地球の未来を考えて取り組んでいます。すごいことですよね。これはゼロサムで奪い合うのではなく、参加したみんながハッピーになるゲームです。だから積極的な姿勢を見せたほうが絶対に得をする。ぼく自身も、他分野の企業の取り組みを参考にしながら、人々の利便性を追求しながら持続可能な社会を実現する方法を、ずっと模索し実践していきたいと思います。


ボルボ スタジオ 青山にて撮影

ボルボ スタジオ 青山にて撮影







TEXT:ERI UJITA PHOTO:KAZUTAKA KIMURA EDIT:KAORU YOSHIDA(CINRA)