THE VOLVO
LIFE JOURNAL

Peter Barakan’s LIVE MAGIC!2020 2020/11/11

ピーター・バラカン氏の審美眼に酔いしれた2日間
LIVE MAGIC!2020 ONLINE・ロングレポート

コロナ禍にあって、初めての配信によるフェスティヴァルを開催!過去の名演奏から新規撮影まで盛り込んだ、まさに集大成ともいえるイヴェントとなった“Peter Barakan’s LIVE MAGIC!2020 ONLINE”をレポート!



例年であれば、秋晴れの10月、恵比寿で開催されるはずのピーター・バラカン氏監修のフェス Live Magic!今年は新型コロナウィルスの影響を受け、3月から開催か否か、開催できるとしたらどういう形にすべきかをバラカン氏を中心に検討した結果、過去の出演者のライヴ映像や、今年のために撮り下ろした新規撮影ライヴなどを配信するオンライン・イヴェントとして開催することに決定。しかもクラウドファンディングを活用した無観客・無料配信という異例の形で実施されることとなった。最終的には900人を超える有志からファンドが集まるという、ファンの熱い想いが実現させたフェスともいえる。



ピーター・バラカン ブロードキャスター

ピーター・バラカン ブロードキャスター

1951年ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科を卒業後、1974年に音楽出版社の著作権業務に就くため来日。現在フリーでラジオやテレビで活動中。「Barakan Beat」(InterFM)、「ウィークエンド・サンシャイン」(NHK-FM)、「ライフスタイル・ミュージアム」(Tokyo FM) 「ジャパノロジー・プラス」(NHK BS1)などを担当。 著書に「ラジオのこちら側で」(岩波新書)、「魂(ソウル)のゆくえ」(アルテスパブリッシング) 「ピーター・バラカン音楽日記」(集英社インターナショナル )、「猿はマンキ、お金はマニ〜日本人のための英語発音ルール」(NHK出版)などがある。



今回のイヴェントタイトルは〈Live Magic!2020 ONLINE〉としながらもサブタイトルして「Medicine Show」と銘打たれている。



Medicine Show

そもそもMedicine Showとは「20世紀初頭のアメリカで薬を売るために行われていた無料のショウ」の意味から由来している。そして本企画においては「音楽が何物にも代えがたい“薬”になる。-音楽には不安を和らげる力がある。コロナ禍でも前向きに良い音楽を伝えていきたい。」―そんなバラカン氏の想いがここに込められている。では早速、その模様をレポートしていこう。



ピーター・バラカン氏



2016年から2019年に行われたLive Magic!から名場面を厳選したものをお届けする今回のオンライン・イヴェント。オープニングを飾ったのは、2017年に出演したウィ・バンジョー・スリーの“Pressed For Time”。フィドルやバンジョーなどのアクースティック楽器が紡ぐグルーヴで、大きなホールを熱狂の渦に包み込んだあの忘れがたい光景が鮮やかによみがえる。



ウィ・バンジョー・スリーの“Pressed For Time”



続いては、2019年出演のトゥアレグ族のバンド、タミクレストの“Imanin Bas Zihoun”。〈砂漠のブルーズ〉と呼ばれるバンドのなかでもひときわロック色の濃い彼らのサウンドだが、荒々しく16ビートを刻みながら疾走するドラムといい、ダイアー・ストレイツのマーク・ノップラーばりにアーシーな音色を奏でるギターといい、実に個性的な集団だとふたたび思い知る。



トゥアレグ族のバンド、タミクレストの“Imanin Bas Zihoun”



個性的という点では、同じく2019年参加の3MA(トゥロア・マ)も同様。マリ出身バラケ・シソコのコラ、モロッコ出身ドリス・エル・マルーミのウード、マダガスカル出身ラジェリのヴァリーがつづれ織ったサウンドは、なんとも摩訶不思議な模様を浮かび上がらせる。



3MA(トゥロア・マ)



そして知る人ぞ知るツワモノバンド、ザ・ニュー・ステュー。2017年に出演した彼らは、先ごろこの世を去ったビル・ウィザーズのライヴ名盤『Live At Carnegie Hall』を完全再現するステージを展開。“Lean On Me”と“Grandma’s Hands”という不朽の名曲のカヴァーがオンエアされたが、ゴスペルチックでソウルフルなムード漂う演奏は言葉に尽くしがたいほどの味わい深さだった。



ザ・ニュー・ステュー



前半のトリは、このたびLive Magic!のライヴ・パフォーマンスがめでたくDVD化されたばかりのニューオーリンズのピアノ名手、ジョン・クリアリーが担当。ゴキゲンというほかないシンコペーションの効いたピアノ演奏は、まさに心に栄養を与える薬となる。



ジョン・クリアリー



なおジョンからは、今回のために演奏した、バラカン氏に捧げるブギウギ・ピアノの映像が届けられた。こちらも絵にかいたようなゴキゲンさで、観客からの反響も大きかった。



ブギウギ・ピアノの映像



そして今回唯一の生演奏ゲストとして、Live Magic!皆勤賞、那智勝浦が生んだ異能のギタリスト、濱口祐自が登場。「うれしいのう、てれくさいのう」と呟きながら、初お目見えとなるギター・バンジョーで“ドクトルOのラグ”などを披露。アーシーなサウンドでもって会場を一瞬にして場末のブルース・ジョイントに様変わりさせてしまう。コロナの自粛期間にレコーディングしたという新曲“友達の家”など独特な哀愁表現も冴えわたっていたが、あまりに自由奔放なMCもまた絶好調。美しい音色とズッコケ感満載なしゃべりの絶妙なバランスぶりに、今回初めて触れた人も間違いなく度肝を抜かれたに違いない。



ギタリスト、濱口祐自



後半は、2019年のハイライトという呼び声も高い小坂忠からスタート。名盤『ほうろう』収録の“ゆうがたラブ”がチョイスされたのだが、ゴスペル仕込みのパワフルな歌唱、ゲスト・ヴォーカルだった桑名晴子やこのために結成されたスペシャルバンドの演奏とともに、見どころ満点だった。



小坂忠



続いてのアーティストは、Live Magic!の常連ともいえるノルウェーのジャズ・ベーシスト、スタイナー・ラクネス。2019年に行ったウッドベースの弾き語りによるソロ・パフォーマンスから“Folks And People”がオンエアされた。アサイラム時代のトム・ウェイツを彷彿とさせる歌声がとにかく渋い。



ノルウェーのジャズ・ベーシスト、スタイナー・ラクネス



そしてべーシストつながりで、與那城美和と松永誠剛から成るMyahk Song Bookの“なりやまあやぐ”。静謐と躍動が調和する民謡とJAZZの融合は聴く者を引き付けずにはいられない。



與那城美和と松永誠剛から成るMyahk Song Bookの“なりやまあやぐ”



続いて凄腕ミュージシャンのチャーリー・ウートンを擁するザバ・デュオの“Suspended”が続けて登場。とりわけ後者の演奏には、TOKUがフリューゲルホルンで飛び入り参加し、大いに盛り上がった。



ザバ・デュオの“Suspended”



そしてDay1の大トリを務めるのは、ルイジアナが生んだ名ギタリスト、サニー・ランドレスだ。“Congo Square”と“Back To Bayou Teche”の2曲がピックアップされていたが、どちらも神業的演奏が展開する名演であった。ギター・マニアの喜びの声が聴こえてくるようなその映像はまさにお宝と言えるものだ。



ギタリスト、サニー・ランドレス



最後にアンコールとして、Reiや高田漣なども参加したサニー・ランドレス・バンドの“Frisco Bay”の映像も流された。興奮がよみがえってくる素晴らしいブルーズ・セッションであるが、ランドレス御大と真っ向から渡り合うReiのエネルギッシュなプレイは何度観てもカッコいい。



“Frisco Bay”



Day2の幕開けは、2018年に出演したデレブ ・ジ・アンバサダーが担当。オーストラリア在住のエチオピア人シンガー、デレブ・デサレンが率いるこのバンドの魅力は、エスニックな旋律が香ばしい楽曲と、エチオピアン・ソウルの伝統を今に伝えるファンキーでジャジーな演奏にあり。ということを物語る演奏を披露。ベース・サウンドも過激極まりなくて最高!



デレブ ・ジ・アンバサダー



続いては、2017年に出演したキューバの至宝、オマール・ソーサの“Dary”がオンエア。セネガル出身のセクー・ケイタのコラとヴェネズエラのグスターボ・オバージェスのパーカッションをフィーチャーした演奏は野性味と洗練さのバランスが絶妙で、その響きはスマイリーでありながらスピリチュアル、という不思議なもの。その素晴らしさに改めて感じ入る。



オマール・ソーサの“Dary”



次に紹介された女性ばかりのマリアチ・バンド、フロール・デ・トロアチェの音楽もまた不思議な果実と呼びたい大変に魅力的なもの。情熱的なアンサンブル、美しくもキュートなコーラスはやたらとクセになる。



マリアチ・バンド、フロール・デ・トロアチェ



そしてアクースティック系つながりで、中村まりのパフォーマンスが登場。マルチ・プレイヤーの高田漣を相方に、魅惑的なリラクシンなムードを創出。両者のウィットに富んだ音の会話は、世界中のルーツ・ミュージック・リスナーを唸らせる魅力を有している。



中村まり・高田漣



そして2018年の話題をさらったバンジョー奏者のノーム・ピケルニーとフィドル奏者のスチュワート・ダンカンによるデュオが前半のトリをとることに。たったふたりっきりとは思えないほど大きな広がりを持った濃密な演奏でガーデンホールを支配してみせた彼ら。高度なテクニックを矢継ぎ早に繰り出していく掛け合いは、いま観てもスリリングで刺激的だ。



バンジョー奏者のノーム・ピケルニーとフィドル奏者のスチュワート・ダンカンによるデュオ



この日は、番組途中からInterFMの「Barakan Beat」の生放送が入り、二元中継を行うという趣向が凝らされていた。そのコーナーを盛り上げるべく、馳せ参じたのはDAY1で生ライヴを披露した濱口祐自。心洗われるピースフルな曲に荒々しいブルージーな即興曲、そこに妖しげなムードも付け加えたこの日のラインナップは、彼のヴァリエーションの幅広さや音楽性の奥行きといったものを如実に伝える結果となった。バラカン氏も「一聴しただけで濱口さんだとわかるすごく特徴のあるメロディー」と称賛していた新曲“楽しい迷路”のパフォーマンスも白眉だった。



InterFMの「Barakan Beat」の生放送で演奏する濱口祐自



イギリス人スライド・ギタリスト、ジャック・ブロードベントのソロ・パフォーマンスで後半が再開。リトル・フィートの名曲“Willin’”のカヴァーを披露したのだが、その歌声は当時20代とは思えないような味を醸していて、天国のローウェル・ジョージもきっとニンマリしているに違いない。



イギリス人スライド・ギタリスト、ジャック・ブロードベント



そしていまや世界的な知名度を誇る存在となった民謡クルセイダーズが登場する。Live Magic!の出演を足掛かりにして名が広く知られるようになったといっても差し支えない民クル。そのことへの感謝の気持ちを捧げるべく、今回は本イヴェントのために新撮したヴィデオを披露したのだが。そこに彼らと共演経験のある元ちとせが加わっていることも早くからトピックスとなっていた。1曲目は、元ちとせが三線で弾き語りする奄美民謡“朝花節”。躍動感に溢れた彼女の歌声に誘われるようにして、民クルの“虎女さま”が登場。お祭りムードが一気に満開となる。そして3曲目は、元と民クルのコラボとなる“豊年節”。なんともエキゾティックでどこまでも未来的なその世界は、これぞネオ・ジャパニーズ・トラディショナル・ミュージック!と呼びたくなるもの。



民謡クルセイダーズ



ユニークといえば、続いてオンエアされたクオーター・トゥ・アフリカの“炭坑節”カヴァーも特筆すべきパフォーマンスだ。民クルと同じく2017年に出演した彼らは、YouTubeで見つけたというこの曲を披露し、客席から大喝采を浴びた。アラブ・テイストで料理された伝統ダンス曲の妙味がよみがえってきて、思わず微笑んでしまった人も多いはず(ライヴ映像の前に、テナーサックス奏者、ヤキール・サソンからのヴィデオ・レターもオンエアされた)。



クオーター・トゥ・アフリカの“炭坑節”カヴァー



次に紹介されたのは、ポーランドのバンド、ヤヌシュ・プルシノフスキ・コンパニャ。彼らから届けられた演奏のヴィデオ・レターが流された。問題なく開催されていれば今年のLive Magic!に出演するはずだった彼ら。リズムが頭にいったり、うしろにいったり自由自在な動きをしていて、聴きようによってはフリージャズにも思える摩訶不思議な演奏を目の当たりにして、ぜひ生で見せてほしい!という気持ちに駆られたものだ。



ポーランドのバンド、ヤヌシュ・プルシノフスキ・コンパニャ



そしてDay2の大トリに控えていたのは、当代ナンバーワンのジャズ・ファンク・バンド、ソウライブだ。彼らの有名曲“Tuesday Night Squad”のめっぽうブルージーですこぶるグルーヴィーなサウンドが、ラスト・シーンを実にカッコよく彩ってくれた。



ジャズ・ファンク・バンド、ソウライブ



ライヴ映像の合間にはLiveMagic!のもう一つの大きな楽しみでもあるFOOD MAGIC!の映像コーナーも展開。毎年、このイヴェントに出店してくれているお店をピーター氏自身が訪れ紹介するという企画。お店の方と気さくに話しながら、美味しそうな料理やスィーツなどの食レポを披露!音楽だけでなく、フェスでの食事やそのスタッフたちも大切にしてイヴェントを作り上げてきたLiveMagic!らしい一幕だった。



FOOD MAGIC!の映像コーナー



フェスティヴァルを監修するピーター・バラカン氏は2日間に渡って、心温まり、または癒され、そして元気になれるような…そう、音楽が私たちにとっての“薬”となる数多く瞬間を提供してくれた。その証拠に視聴者からのコメントは途絶えることなく、配信時間中は更新されっぱなしの状態。その多くが音楽への愛にあふれ、またファン同士にコミュニケーションに場になっていたのもLive Magic!ならではの光景だった。
濱口祐自がコメントで言っていたように、来年こそは笑顔でみんなと再会したい――素晴らしい演奏の数々に酔いしれながら、誰もがそんな気持ちになっていたことだろう。驚きに溢れた出会いをいつだって用意してくれるこんな特別な音楽フェスティヴァルは他にない。来年こそ、元気に皆さんと会えますように!



バラカン氏がセレクトしたコンピレーションCD

最後に。
この日はボルボからのプレゼントも実施!配信を観覧した方々へ、バラカン氏がセレクトしたコンピレーションCDを抽選でプレゼントするという企画も行われ、数多くの応募をいただきました。良きドライブの友となることを祈りつつ、ご応募をいただきました方々に御礼を申し上げます!



ピーター・バラカン ブロードキャスター