THE VOLVO
LIFE JOURNAL

XC90 プラグインハイブリッドの魅力 2021/03/03

小川フミオ氏によるSUVのラインナップの頂点、XC90の雪上試乗レポート

XC90



ボルボのSUVのなかでも、後席を使う機会が多いひとにぴったりなのが「XC90」だ。SUVのラインナップの頂点にあるだけに、勧めたい理由は、余裕ある室内空間と、活発で頼りになる走り。それに「XC90 Recharge Plug-in hybrid T8 AWD Inscription」にみられるオールマイティぶりだ。


XC90シリーズと筆者は、デビューのとき国際試乗会が開かれたバルセロナ近郊シッチャスで初めてドライブしていらいの、けっこう長いおつきあいだ。途中、モデルバリエーションが追加され、快適豪華な仕様もあれば、燃費にすぐれたロングツアラーとして魅力的な仕様もあった。


ボルボは、ただし、環境への負荷をできるだけ減らすべく、ディーゼルエンジンを廃止するという勇断をくだした。そこでいま注目すべきXC90といえば、ここで紹介する「Recharge(プラグインハイブリッド)」。簡単にいうと、前輪はエンジンで、後輪は電気モーターで、という新世代のAWD(全輪駆動車)である。



XC90



ボルボは「2019年までに全モデルの電動化」を謳い、実際に完了している。電動化とは、内燃機関に電気モーターを加えること。それによって燃費を向上させるというのだ。そして、特長はそれだけにとどまらない。


筆者が「XC90 Recharge Plug-in hybrid T8 AWD Inscription」の実力にあらためて感心したのは、北国が大雪に見舞われた2020年-2021年シーズンにあって、青森で試乗したときだった。


青森県を中心に、東北地方の地域経済を支えてきた青森市の市内は積雪が少ない地形にめぐまれているものの、山のほうはちがう。八甲田山方面へと走り、湯治客にも人気の酸性硫黄泉で有名な酸ヶ湯温泉と、棟方志功が愛したという八甲田ホテルへとワインディングロードを上っていくと、たちまち銀世界のなかに入ってしまった。


「雪上の実力をみてください」とは、筆者にボルボカージャパンの広報担当者が言ったこと。雪のない季節は長い距離でも疲労度の少ない快適性を喧伝するいっぽう、雪のときは、北欧うまれの実力を知ってもらおうと、製品のことを知り尽くしたPRぶりに、いつも感心させられている。


雪のない季節はブナの並木が美しい(はずの)八甲田山中のドライブルートを行くとき、耳を澄ましていると、ぎしぎしっとブリザックというブリヂストンのスタッドレスタイヤが、雪をしっかりつかんでいくように走るのが感じられるような気がする。もちろんボルボのAWDシステムの安心感も高い。


ボルボ車は1996年の「850エステート」と続く97年の「V70」から、AWDシステム開発に力を入れてきている。高速で四輪を駆動して走るときの安定性や、カーブを曲がるときに4輪のグリップを最適に活用してスムーズかつ速くというスポーツドライビングにも恩恵をもたらしている。


雪道については80年代は「後輪駆動でもじゅうぶん大丈夫」と言っていたものの、上記のようにトータルの性能でAWDにはAWDのメリットがあるため、展開が増えたのだろう。不思議ではない。



XC90



現在のボルボでは、「Recharge」のように、外部充電可能な大容量バッテリーを搭載しつつ、電気モーターで後輪を駆動する新世代のAWDシステムを採用する車種が出てきた。例えばPureモードを選択している場合、駆動用バッテリーが残っているかぎり電気(だけ)で走り、必要に応じ2リッターエンジンが始動し4輪が駆動する。


ブレーキペダルを踏んだときに、アクセルオフやブレーキオンのときの抵抗を利用して充電する回生システムも有効で、かりにワインディングロードの上りで駆動用バッテリーの残量が減っても、下りで電力がたまっていくのがわかる。


ボルボのAWDシステムでは、路面状況や走りかたによって、前輪と後輪の駆動力が制御される。つまりEVモードで(後輪駆動で)走っていても、たとえば路面の摩擦係数が低くなるなど4輪駆動のほうが有効と判断されればAWDになる。



XC90



八甲田山は5月のゴールデンウィークごろまでスキーが出来ることで知られている。山ひとつ超えたクルマで30分ほどの距離の奥入瀬(おいらせ)渓流は雪が多くないのに、八甲田山のほうは大雪。道路の両側には雪を固めた壁がそそりたっている。


XC90は、まったく不安なし。極端なことをいうと、乾いた路面と同じように走ってしまう。あまりにもすいすいといくので、他の車両がない広い駐車場で、ぽんっとアクセルペダルを踏んで、ほぼ同時に、えいやっとステアリングホイールを切ってみたものの、すっと操舵した方向に車体がノーズを向けただけだった。


積雪の上でも、前輪用のリミテッドスリップデフが効くのと同時に、リアの左右独立したモーターが同様の働きをする。そのため、どちらかの車輪がすこしグリップを失ったときに、反対側の車輪が空転するという現象が起きない。


いっぽう、駆動用バッテリーがメーター上ゼロになると、AWDシステムはどうなるのか。じっさいに筆者は八甲田山中、酸ヶ湯へと向かう上りでそれを経験した。ところが、じつは駆動用バッテリーがゼロにならない。AWDシステムがオフになることはないという。


理由はもちろん安全な走行のためで、駆動用バッテリーの残量が規定を下回ると、エンジンが始動して充電を始める。これはピュアEVにはない、エンジンを搭載したハイブリッドシステムの長所だ。


ボルボのこのプラグインハイブリッドシステムで、もうひとつ、ユニークであり、かつありがたいのは、「チャージ」モードの設定である。住宅地に家があり、ドライブの翌日に早朝ゴルフなどというとき、静粛性の高いEVモードを使いたい。そのために駆動用バッテリーの残量を確保しておけるのが「チャージモード」。選択すると、エンジンパワーの一部を使って駆動用バッテリーへの充電を行う。


2リッターガソリンエンジンは比較的低回転域用のスーパーチャージャーと高回転域用のターボチャージャーで“武装”し、「T8」モデルのばあい、233kW(318ps)の最高出力と400Nmの最大トルクを持つ。つまりじゅうぶんパワフルだ。その加速を楽しみながら、自宅に戻るまでチャージモードで充電をして、翌日にそなえるという使いかたができる。


雪道といい、このチャージモードといい、日常つかいをしてこそわかるボルボの魅力なのだ。これこそ、本当の意味でよくできたライフスタイルカーといっていいと思う。





文:小川フミオ